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あの日につながる切ない想い@ACHE ~疼き~(後半)

今がけして幸せでないというわけじゃないけど。
振り返るともっともっとあたたかくておだやかで、
幸せな日々があったような気がする。

もう戻れないあの頃を思うとき、
胸にかすかな痛みを感じる......


前の記事からの続きです。

そこは、わたさん(湖月わたる)の20周年記念の舞台。リサイタル?
わたさんのダンスは切れがあって格好いい。有村センセイ(衣装:有村淳)の.....いかにも有村センセイらしい、白いスレンダーなスーツがよく似合ってる。

幕間にロビーで、元・宙組組長のまりえったさん(美郷真也)が、元・雪組副組長のよっこさん(灯奈美)や、たぶん歌唱指導の楊淑美サンに向かって「わたさん、一段と男っぷりをあげた」って熱心に話してるのを小耳にはさんだけど。ほんとうに、そのとおりだと思う。

ゆりちゃん(星奈優里)との息もピッタリ合っている....と、思う。ゆりちゃんのダンスは、昔から思うけれど、本当に女らしくて色気があるのに、キレがよくって、素敵。ゆりちゃんと絡むと、さらにわたさんの男振りが上がる。

そこに怪しい男どもが現れ、ゆりちゃんを連れ去ろうとする。
ゆりちゃんを奪われまいとして、わたさんが男どもに挑みかかる。拳闘シーンが始まる。わたさんの長い手足が躍る。あざやかさに目が奪われる。格好いいよ、わたさん!


舞台は「失われた半身を捜し求める場所」に代わる。そこに現れた、半身同士がくっついた2人@附田政信さん&坂本まさるさんが、息もぴったりで、コミカルで、笑いがこぼれる。この2人は「意識」とか「感情」とか、なのね。2人の動きは、さまざまな感情や、思いや、目に見えないものが表現されたもの。面白いけど、すごく深い。人間の身体ってこんなにもたくさんのことが表現できるんだ.....と思って、感心してしまう。

わたさんの身体も同じ。長い手足でしなやかに踊るわたさんの中から、言葉で表せない何かが流れ出てくるのがわかる..........それは「流れ出る」のだと思う。流れ出るものは、感情とか、思いとか、空気、かな。頭で考えるよりも先に、心が何かを感じ取ってしまうような......この、わたさんから感じる「何か」を、言葉でうまく表せないのがもどかしいのだけれど。

わたさんの動きに従って、白いジャケットの裾が翻り、シルバーの....なんていうのかな?ネックレス?マフラー?ともかくそれが、ジャケットの襟に沿って、キラキラと揺れるのが、とてもきれい。

わたさんは「パートナー」が今も無事にそこに生きていることを知って、安堵する。
お芝居の中のありふれたひとコマだけど、この舞台の中では、そんなひとコマひとコマ、一言一言が何か重要な意味を持っている気がする。

失われた半身を選ぶなら「前と同じ半身がいい」と、わたさんは言う。なぜなら「パートナー」だから。けど、わたさんは「パートナー」の何を知っていたのか.....

失われた半身に代わる半身に、男性を選ぶのか、女性を選ぶのか、はたまたそのどちらでもない何ものかを選ぶのか。
わたさんが求めるのは、女性。ゆりちゃん。けど、彼女はわたさんから目を逸らし、そこから逃げようとする。

男性。戸井さんは、わたさんを強く引き寄せようとする。
もう一人、さえちゃんは、少年のように見える。たぶん女性じゃないけど男性でもない。両性具有というよりもむしろ、未分化といったほうが似合う。
さえちゃんは、わたさんにささやきかけ、誘惑する。わたさんの意識の底に潜り込もうとするかのように。

女性のゆりちゃんと絡むと、わたさんの男振りが際立つ。
男性の戸井勝海さんが迫ると、わたさんは明らかに女だ.....当然だけど。女性らしさがにじみ出る。

さえちゃんは.....さえちゃんはほんとうに、ボーダーに生きる人。男性とも、女性とも。大人とも子どもとも.....どころか、人間ともつかない。不思議な空気感を醸し出している。
そういえばさえちゃんは、昔からそうでしたね....何ものでもない役がとても似あっていて上手かった。それは上手い、下手というものではないのかもしれないですね。自然に身に添うものなのかもしれない。それが魔性と呼ばれるものなのかもしれない。

そんなさえちゃんが、わたさんに恋い焦がれている。怪しく熱い眼差しでわたさんに挑みかかる。わたさんを勝ち取るのは自分以外にはありえないと、そうであるのが当然だとでもいうかのように。

わたさんは躊躇し、苦悩している。自分の半身は、男性なのか、女性なのか。あるいはそのどちらでもない何ものか。

さえちゃんはゆりちゃんがわたさんを「売った」事実を告げる。なぜ?わたさんに詰め寄られて、ゆりちゃんは逃げようとする。
そこに再び怪しい男たちが現れ、そして.....

前と同じ......同じに見えるけれども少し違う世界に戻ったわたさんは、再び新たな場所に向けて歩み始める。

舞台を下り。客席の通路を後方に向かって一筋に、わたさんが歩いてくる。わたさんを照らしていたライトが途切れ、暗がりの中。わたさんの白い影が、近づき、通り過ぎて、消えた。そこに、わたさんの気配だけがいつまでも残っているような気がした.........


宝塚を卒業するということは、男役と訣別するということだけれども。それは自分の半身を喪うのに等しいことなのですね。自分の意思とか思いといったもの、いわゆる「ハート」の部分は変わらずにあるけれども、それを表現する身体を喪ってしまった.......これまで私がなんとなく想像していたのもとは少し違うけれど、現実に男役を卒業したわたさんには、そのような感覚があるのかしら.....

さらに、その「表現する身体」は女性だった、ということかしら....わたさんの「男役」の心を、わたさんという女性が表現していたってことかしら.......これも、これまで「男役」に対して想像していたものと違うけれど、でも、ちょっと納得できる。

男役と別れ、表現する術を求めて模索していたけれど、わたさんはわたさんらしく、これからもやっていくんだと、そんなわたさんの現在の思いがこの舞台に込められているような気がしました。
20周年の記念に「これまで」を振り返るのではなく、現在の自分の立ち位置や思いを舞台で表現するというのが、すごく新鮮だし、すごく共感できる。なんとなくわたさんらしいなって気がしました。そういう意味でも、この作品はとても好きだなって思いました。

私の感じたものが違ってなければ、それをこのような形で表現してくださった大野センセイ(演出:大野拓史)も素晴らしい!


わたさんが去った舞台に、さえちゃんが現れ、次いで出演者たちが、そしてわたさんが現れて、フィナーレのショーが始まりました。それまでとうって変った明るく賑やかな雰囲気に戸惑ったけれど。でも、あの雰囲気のまま終わってしまったら、重たい空気を引きずって帰らないといけないものね。それはファンにとってはちょっと....だものね。

わたさんに合わせて、客席全体が揺れるのが後方の席からはよく見わたせる。このぱぁっと明るい空気、客席との一体感も、わたさんの魅力ですね........そういえばそうでした。わたさんがトップさんだった頃を思い出して、少し懐かしかった。

わたさんとさえちゃんの短いけど楽しいトークがあって、切なくて楽しい舞台は終了。終演後のロビーが、満ち足りた表情のファンであふれていたのが、印象的でした。

20080711212638
劇場の帰り道は、京橋から有楽町に出ました。
駅前の雑踏を抜けたら東京宝塚劇場の尖塔が見えて......なんだかすごく遠いところから戻ってきたような気がしました。

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