2008年の年明けに、最初に観劇したのは、1月2日。星組『エル・アルコン』『蘭の星』の東京公演初日だったのですが、先にこちらを書いておきましょう。
月組『A-“R”ex』-如何にして大王アレクサンダーは世界の覇者たる道を邁進するに至ったか-
初見は1月9日。日本青年館で夜の部を観劇しました。
開演ギリギリに1階客席に飛び込んだ私の目に映ったものは、舞台の上に浮かんだ大きな世界地図。そして、赤茶色い岩の崖のようなセット。赤い大地。オギーの世界だ......
やがて、1970年代ぐらいのヒッピーみたいなレイヤードとかパッチワークとか、ジーンズとかのお衣装のコたちが現れ......皆スタイルがいいから、とってもかわいい。センスがいいのかどうかはよくわからないけれど、かわいい。キュート。これからどういう風に話が始まっていくのか、すごく期待させられます。
続いて登場したタキさん(出雲綾)は、やはり1960年代か1970年代ぐらいの、アメリカの女性士官の軍服を着ていました。帽子をかぶって、キリリっとした佇まいが新鮮です。でも、客席に向かって声をかけたり、若者たちを急きたてるあたりは、いつものタキさんの芸風。なんだかこのお衣装ともぴったりハマってます。なんとなく安心感(苦笑)。
上手の崖の上に現れ、たたずむ、あさこちゃん(瀬奈じゅん)がきれいで、なんだかせつない。これから、アレキサンダー大王の劇が。劇中劇が始まるのね.......
タキさんは アテナ。アテネの守護神で、戦いの女神。この世の人の営みは、神が作り演出する劇なのね。女神は思いのままにシナリオを作り、人々を動かそうとするのね。
アテナは戦いの女神ニケ@かなみちゃん(彩乃かなみ)を、アレックスの元に遣わすのだけれど。女神が遣わす前に、二人は出会ってしまう。
ニケの登場からアレックスとニケが出会う場面は、とても素敵でした。ひりひりとした甘い痛み。キラキラとサワヤカなロマンチック......この二人だから醸し出せる雰囲気。ここを見ただけで、なんか満足な気がしました。この作品ではこの場面が見れただけで、いいわ......って、早くもこの瞬間に思いました。
アレックスは、ニケに魅せられて走り始めたのかしら.....
父王フィリップの死。若くして王となったアレックスは、父王の始めた戦いを続けることにためらい、逡巡する。
神の意のままに生かされることに、抵抗する。
アレックスと母の関係は複雑。正直言って難しすぎて、私にはよくわからなかった。ただ、母はアレックスを愛していて、だけどそれと同じくらいアレックスを憎んでいるらしいてことはわかりました。アレックスの中に夫の面影を見いだし、それを憎んでいるのかしらね?よくわからない。
けど、アレックスは母に追いやられて、なのか。母から逃げるため、なのか。ともかく走り始める。
アレックスの母オリンピアス@シビさん(矢代鴻)は上手い。やっぱり上手いな....歪んだ愛、嫉妬、憎悪。情念。女の、人間の心の奥底にに潜むどろどろとしたものを引きずり出して、さらけ出すような歌。心と耳をつかんで離さない。歌詞を聞いてなくても......正直、歌詞は難しくてよくわからなかったんだけど(苦笑).........そこにこもる思いが、心をえぐるように伝わってきます。
苦悩の若き王アレックスの前に、ワインと蛇つかいと、なんだかよくわからないけれど、野卑な神なのかしら?アテナのようには洗練されていないけれど、熱狂的な人々に取り囲まれた神、ディオニュソス@きりやん(霧矢大夢)があらわれる。熱狂的な崇拝者の中には、アレックスの母もいる。
きりやんもまた、舞台の空気を変え、支配できる力のある人だな.....とあらためて感じます。ディオニュソスの歌が始まると、客席の気配が緊張し、ディオニュソスに向けて流れこんでいくのが分かる。しかもディオニュソスは色気のある神だ.......なんとも妖しい神様。きりやんがこんなに妖しい空気を身にまとうことができる人とは、申し訳ないけれどこれまで気づいていませんでした。
シビさんときりやんが、ともに歌う場面は圧巻。すばらしい。どちらもすごい力と思いを込めた歌。この場面が見られただけでも、今日来てよかった........とまたも思いました(苦笑)
アレックスに近づくディオニュソス。アレックスはディオニュソスを選ぶ。ディオニュソスはアレックスの影となって従う。
アレックスに期待と信頼を寄せ、つき従う部下たち。アレックスを戦いへと誘い出し、アレックスとともに走り続ける兵士たち。彼らはアレックスに夢を見出していたのかな.......ヘファイスティオン@まっきー(龍真咲)を見ていると、そんなふうに思います。
アレックスの存在が夢? 希望?
でも、夢は破れていくのね。どこまでも走り続けるアレックスに、疲弊し、脱落していく腹心の部下たち。
アレックスの周りに、さまざまな人々があらわれる。さまざまな情景があらわれる。
ただ「父王の死」の一瞬のためだけに現れ、歴史から捨て去られる花嫁。アレックスの妹クレオパトラ@はるちゃん(麻華りんか)。舞台にしばしばあらわれる花嫁に、私はとても魅かれました。このお芝居の本質から外れているのかいないのか、それもよくわからないのだけれど、彼女の空虚なたたずまいが、強く印象に残りました。
エジプトの歌姫の華やかさも、印象的だったな.....音姫すなおちゃん、かな?
アレックスが歩みを進めるに従い、舞台となる国が変わる。国が変われば神の呼び名も変わる。変わるのは呼び名じゃなくて、神そのものが変わるのかな。でも「人々がこめる思いが同じならば、神は同じ」という、そんなくだりが2幕あたりにあった気がする。これも印象に残った場面だな......
アレックスは、父が始めた戦いに勝利しても、戦いを止めない。さらに東をめざす。なぜ東を目指すのか、なぜ自分たちの国へ帰らないのか。腹心の部下にもわからない。戦いの女神にも走るのを止められない。勝利の女神ニケにも、わからない。
人間の営みが神の目論見を超えて動き始めた瞬間、ということなのかしら............
アリストテレス@まちおさん(北嶋麻実)は、歴史に残った事実を変わらず読み上げ続ける。タキさんが語るのが神々の目論見なら、まちおさんが読み上げるのはアレックスの足跡。人間の営み。対照的です。
アレックスの行く手に、父王の亡霊?が現れる。大きくて、偉大。
アレックスは父を超えるために走り続けたのかしら.....
父王フィリッポスであり、偉大な敵ダリウスでもあるケイさん(萬あきら)は、とってもかっこよかった。申し訳ないけれど、こんなにかっこいい人とはこれまで思っていませんでした.....いや、薄々気づいてはいたけれど、いまはっきりと認識しました。朗々と響く歌声も、印象的でした。
ダリウスの娘、スタティラ@白華れみちゃんを、アレックスは初めて娶る。けど、アレックスはスタティラを見ているようで、見ていない。遠くばかりを見ている。スタティラはそれに気づいている。アレックスとスタティラのやりとりも、ひりひりとしてせつない。悲しい。れみちゃんのもつ透明感が、切なさをより一層切ないものにする。
やがて、走り続けたアレックスに立ち止まる時が来た。そこで出会った人は........でも、それがこの旅のゴールだったのだろうか.....これがその答えだったのだろうか.....
何かに衝き動かされかのように、東へ、東へと走り抜けたアレックス。彼を衝き動かしたものは何だったのだろうか........答えは誰にもわからない、のかもしれない。
ただ、その何かは、いつの時代にも人々の心に潜むものなのではないだろうか....いわば時代を超えた共通の何か、がそこにあるのではないだろうか......
『A-“R”ex』は、荻田先生らしい多重構造を持つ舞台でした。目に見えているものは、単なる符号にすぎなくて。それにとらわれていると、何かを見落とすぞ、と。けど目に見えている符号もまた重要な意味をもっているから、気が抜けない。
「如何にして大王アレクサンダーは世界の覇者たる道を邁進するに至ったか」という命題に対して、結局答えはよくわからなかったけれど、わからないままにいろいろなことを考え、いろいろな思いの中にふわふわと漂っているのも心地いいかな........と思う。
ショーもなく、フィナーレもない。どちらかといえば地味な舞台だけれど、舞台装置や照明はよく考えられていて美しく、やっぱり宝塚歌劇だな、と思いました。お衣装も意外ではあったし、必ずしもセンスがいいとはいえないけれど、それぞれにキュートでした。
けど、これは私たちが期待する「宝塚歌劇」とはまったく違うものであることは確か。こういう芝居をあえて「宝塚歌劇」で上演する必要があるのか、という批判はあって当然かと思うし、「宝塚歌劇」を期待して劇場に足を運んだ人は、戸惑いを隠せないと思います。
......いつもの荻田先生の世界だわ、と言ってしまえばそれまでだし。
けど、この作品は、あさこちゃん、かなみちゃん、きりやん、それにシビさん、タキさん、それぞれに実力と個性を兼ね備えた出演者がいてこそ成り立つというか。この出演者がいたからこそ想起されたものではないかと思います。
そういう意味で、今ここで、この月組で演じることに意味のある舞台であることには間違いないと思います。そういう「生物(せいぶつ、じゃなくて、なまもの....笑)」的な作品が見られるのって、やっぱり醍醐味だと思うし。バウとかDCとかの小規模な公演なら、こういう実験的ていうか意欲的な作品があっていいと、私は思います。
『A-“R”ex』、私はとても面白いと思いました。好きです。この作品を観る機会を得たことに、感謝したいと思います。
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